EVの重量の問題

EV車の重量はガソリン車比で4~5倍

近年、環境への配慮やエネルギーコストの安さといった観点からEV車が注目されつつあります。
世界的に見てEV車の普及は進んでおり日本も例外ではありませんが、充電ステーション設置にかかるコストや都市部と地方の格差など、まだまだ国内EV車の普及を高めるために解決すべき課題を抱えているのも現状です。

こうした課題のひとつに、EV車の重量問題があります。
軽自動車を購入する人が年々増えてきているように、車は軽量かつ小型であるほど良い時代という流れになってはきているものの、EV車にはそれが当てはまりません。
EV車の重量は従来のガソリン車と比べても4倍から5倍近く重くなっているとされており、この数値は予想以上と考える人も多いでしょう。

EV車がここまで重くなってしまう原因は、電気自動車として稼働させるために必要なリチウムイオンバッテリーが重たいことにあります。
種類にもよりますが、リチウムイオンバッテリーだけで軽量の小型ガソリン車1台分相当の重量を誇るものもあり、その重さがよく分かります。
とはいえ、重くなるから性能も悪くなるというわけでもなく、ガソリンを使わず排気ガスも排出しないという環境への優しさで走行できる車であり、充電場所や充電時間の問題さえ解決できれば従来の車と遜色なく利用は可能です。

道路へのダメージや事故時の重傷化のリスクが懸念

環境へ配慮されたEV車ですが、EV車の高重量化問題はかえって悪影響となっているのではないかと懸念されている部分もあります。
まずは、EV車が走る道路へのダメージです。
国土交通省によると、高速道路を走る場合の軸重の影響は、最大で12乗倍になるとされています。
車体の重さが2倍違うだけでも多大な負担が道路にかかることになるため、今の重さのEV車が普及すると道路整備が頻繁に必要になります。

また道路と同じく車のタイヤも重さに応じて摩耗が早くなり、ガソリン車に比べて少なくとも1.5倍はタイヤが摩耗しやすいとされています。
タイヤ交換が増えればそれだけ環境負荷も高くなるといえるため、改善が期待される部分です。

また、事故を起こした場合の重傷化リスクも車の重量が重いほど高くなります。
特に対歩行者の場合は、重量のある車にぶつかった時ほどダメージも大きくなり死亡率も高まります。
こうしたさまざまなリスクへの懸念があるため、一概にEV車だから環境に優しいと言い切ることはできません。
国内でもEV車普及に向けての補助金制度や各自治体の取り組みが盛んに行われていますが、EV車が抱える重量問題の解決は今後の普及率を高めるためにも急ぎ解決すべき課題であるといえるでしょう。

メルセデスが2030年代までエンジン車販売へ

2030年までの完全電動化計画を変更

ドイツの大手自動車メーカーであるメルセデス・ベンツは、かねてより計画していた2030年までの完全電動化計画を修正して、2030年代まではエンジン車の販売も従来通り続けるという方針を表明しています。
この計画は2021年に発表された、市場環境が許す限り自社販売の自動車ラインナップをすべて電動化するという内容のものでしたが、これが変更となりました。

また新車販売台数の50%をEV、もしくはPHEVにするのを2025年までの目標としていたものも2020年代後半に最大50%と修正されています。
PHEV車といえば、近年エコな乗り物として注目されつつある電動自動車で、その導入は国内のみならず世界各地でも進んでいます。

こうした取り組みに乗る形で大手自動車メーカーが電動化の普及に積極的となっていましたが、今回の計画変更発表で普及の難しさがより浮き彫りになったと言えるでしょう。
2024年2月の決算説明会でCEOのオラ・ケレニウス氏は、市場に製品を押しつけて人為的に目標達成を狙うのは理にかなっていないとも語っています。

計画変更の背景はEV需要の鈍化

計画変更となった背景には、EV需要の鈍化もあると考えられています。
EVの普及は世界各地で広がってはいるものの、未だ十分に普及されていない地域も多く、日本国内でも普及率は10%未満です。
国や自治体が総力を上げてもなかなか普及しきれないのには、EV車が抱えるあらゆる問題が影響しています。

まずは、動力となる電力の供給問題です。
EV車のバッテリーを充電するための充電ステーションは国内でも限られた場所にしか設置されておらず、特に都市部と地域での格差は大きいです。
バッテリーが少なくなっても気軽に充電できるスポットが点在していなければ、ドライバーからすれば乗り回そうとも思いづらい車になってしまいます。

充電ステーションの設置自体も、そもそもEV車が普及しなければ採算に合わないとして設置数が伸び悩んでおり、利便性の面でも中々改善が見られません。
バッテリーを充電する時間も長いため、長距離を運転する場合の車としては不向きであり、それならば従来通りガソリンを入れてすぐに動く車に乗るという人が今でも多いのです。
こうした課題は国内だけでなく世界中でも問題視されているため、一刻も早く解決しなければ爆発的な普及は見込めません。

今回メルセデス・ベンツが計画を修正したのも、このEV車を取り巻く現状を考えれば当然の結果とも言えます。
地方格差やステーション設置のコスト、その他あらゆる課題を洗い出して世界的に総力戦で課題を解決する姿勢を見せなければ、100%の完全電動化の道のりはまだまだ長いでしょう。