メルセデスが2030年代までエンジン車販売へ

2030年までの完全電動化計画を変更

ドイツの大手自動車メーカーであるメルセデス・ベンツは、かねてより計画していた2030年までの完全電動化計画を修正して、2030年代まではエンジン車の販売も従来通り続けるという方針を表明しています。
この計画は2021年に発表された、市場環境が許す限り自社販売の自動車ラインナップをすべて電動化するという内容のものでしたが、これが変更となりました。

また新車販売台数の50%をEV、もしくはPHEVにするのを2025年までの目標としていたものも2020年代後半に最大50%と修正されています。
PHEV車といえば、近年エコな乗り物として注目されつつある電動自動車で、その導入は国内のみならず世界各地でも進んでいます。

こうした取り組みに乗る形で大手自動車メーカーが電動化の普及に積極的となっていましたが、今回の計画変更発表で普及の難しさがより浮き彫りになったと言えるでしょう。
2024年2月の決算説明会でCEOのオラ・ケレニウス氏は、市場に製品を押しつけて人為的に目標達成を狙うのは理にかなっていないとも語っています。

計画変更の背景はEV需要の鈍化

計画変更となった背景には、EV需要の鈍化もあると考えられています。
EVの普及は世界各地で広がってはいるものの、未だ十分に普及されていない地域も多く、日本国内でも普及率は10%未満です。
国や自治体が総力を上げてもなかなか普及しきれないのには、EV車が抱えるあらゆる問題が影響しています。

まずは、動力となる電力の供給問題です。
EV車のバッテリーを充電するための充電ステーションは国内でも限られた場所にしか設置されておらず、特に都市部と地域での格差は大きいです。
バッテリーが少なくなっても気軽に充電できるスポットが点在していなければ、ドライバーからすれば乗り回そうとも思いづらい車になってしまいます。

充電ステーションの設置自体も、そもそもEV車が普及しなければ採算に合わないとして設置数が伸び悩んでおり、利便性の面でも中々改善が見られません。
バッテリーを充電する時間も長いため、長距離を運転する場合の車としては不向きであり、それならば従来通りガソリンを入れてすぐに動く車に乗るという人が今でも多いのです。
こうした課題は国内だけでなく世界中でも問題視されているため、一刻も早く解決しなければ爆発的な普及は見込めません。

今回メルセデス・ベンツが計画を修正したのも、このEV車を取り巻く現状を考えれば当然の結果とも言えます。
地方格差やステーション設置のコスト、その他あらゆる課題を洗い出して世界的に総力戦で課題を解決する姿勢を見せなければ、100%の完全電動化の道のりはまだまだ長いでしょう。

EUの2035年EV化法案に待ったがかかる

2035年EV化法案とは?

2035年EV化法案とは、2035年より後に生産される自動車については、二酸化炭素の排出が実質的にゼロとなるものとしなければならないという方針です。
2021年7月に、EUの中核となる欧州委員会が「気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書」という形で発表した内容に基づいています。
EUでは、日本と同じように新車を販売するに当たっては関係当局に型式登録しないといけないのですが、その際に二酸化炭素を出さない、いわゆるゼロエミッションカーでないと認可を出さないという形にするとしたのです。
この政策文書は2022年10月に最終合意にいたり、2023年2月には欧州議会で採択されることによって法案として誕生しました。

法案に適合した基準を満たせる車の種類としては、EVつまり完全電気自動車とFCVつまり水素などを燃料とする燃料電池車があります。
しかし、ヨーロッパでは水素カーの開発はあまり進んでいませんので、実質的にはEVをメインとして普及させることを念頭に置いています。
これは、事実上ガソリン車の生産ができなくなることを意味しています。

もちろん、燃費は良くなるにしてもガソリンを使用するハイブリッド車についても同様です。
こうした規制を設けることで、少なくても自動車から排出される二酸化炭素をゼロにすることによって、全体の二酸化炭素の排出を抑えようとする狙いがあります。

ドイツなどが不支持にまわることになった

上記のように欧州議会での採択まで進んだ法案だったのですが、2023年3月になって事態が大きく動きます。
というのも、3月7日に法案の最終決定をする閣僚理事会が開催される予定だったのですが、ドイツの意見によって延期されてしまったからです。
ドイツは、すでに提出されていた法案を支持しないと表明したことから、実質的に閣僚会議を開いても合意に至らないことが明白になりました。

不支持を表明した際に、ドイツはe-fuelという内燃機関を持つ構造の自動車も認可されるようにしないと法案を支持しないと付け加えています。
このe-fuelとは、水素を含んだ合成燃料のことを指します。
燃焼を伴う動力源ですので、利用時には二酸化炭素を排出します。

しかし、再生可能エネルギーを使った水素を使うことによって製造過程で二酸化炭素を消費します。
そのため、トータルで見ると実質的にはゼロエミッションになると考えられている燃料です。
こうした不支持表明に対して、他の国も従うことになり法案は否決されることがほぼ確実となっています。
これからは、法案を修正して完全EVだけでなく、e-fuelも含めた代替案も加えた形で新しい法案が作られることが考えられます。