SMRは脱炭素化の切り札になるか

SMRとは何か?

近年、脱炭素化のための切り札として世界各国で注目されているのがSMRです。
SMRは「Small Modular Reactor」の略称で、一般的に小型モジュール炉と呼ばれている原子炉のことを指します。
原発といえば大きな施設をイメージしますが、SMRは通常の原発に比べてあるため出力は小さく、その分、安全性は高いと期待されています。
国際原子力機関のIAEAでは発電容量が300MWまでの原子力炉を小型と定めていますが、SMRは0.068MW〜500MWとなっているため、そのほとんどが小型として扱われます。

また構造についても一部の部品がモジュール化されているため、工場で製造してから現場で組み立てる形をとることで建設費用のコストも抑えられるとして注目されている設備です。
原子力エネルギーを比較的安全に、かつ安価なコストで作り出せるとして、世界各国では開発や研究が進められています。

SMRのメリット・デメリット

SMRにメリットは、従来の原子力に比べて小型かつ低出力であるという点です。
低出力とだけ聞くとデメリットに聞こえるかもしれませんが、原子炉は災害や故障、人為的ミスによって何かしらのトラブルが起きた場合のリスクが大きいです。
SMRであればこのような万が一の場面でも被害は最小限に抑えられるため、保守コストも結果的に削減が可能です。

また、建設予定の現場で一から作り上げる従来の原発と比べても、モジュール化されて品質も保証された部品を組み立てて作り上げるSMRは工期の短縮が見込めます。
このように、保守や建設にかかるコストを削減しつつ安全性も高いのがSMRのメリットです。

一方のデメリットとしては、通常の原子炉ほどのエネルギーを生産できないため、供給網が確立されなければ運用コストが高くついてしまう点です。
保守や建設のコストを削減できたとしても、維持費がかかり続けてしまうと結果的にマイナスとなります。
発電にかかるコストは、結果的に出力が高い方が元を取りやすいため、そうした面でSMRは採算に合わないという声もあります。

SMRに対する日本企業のアプローチ

SMRを巡っては、日本企業もさまざまなプロジェクトに参画しています。
たとえば、IHIや日揮ホールディングスといった大手企業は米国で進行中のSMRプロジェクトへの出資や人材派遣を積極的に実施しており、国内の原子力産業活性化や国際的な競争力を向上させる取り組みを行なっています。

原子力発電が持つ可能性が再評価されつつある中、小型モジュール炉であるSMRもその将来性が期待されており、国内の企業も積極的にプロジェクトに参画しているのが現状です。
次世代エネルギーを担う主要分野として、今後のSMRに注目が集まります。

国内の原子力発電所の稼働について

原子力発電所の現在の稼働状況

日本国内には各地に54の原子力発電所が設置されていて、総発電量の3割とある程度大きな割合を原子力が占めていた状況が続いていました。
しかし、東日本大震災に伴って福島第一原子力発電所に事故が生じたことで、原子力発電所の安全性が疑問視されるようになりました。
その反省から、安全かどうかを審査するために一時停止しているところも多く、現在は原子力発電が全体に占める割合は下がっています。
また、耐用年数が過ぎているなどの事情で、廃炉が決定していたり実際にすでに廃炉に向けた作業をしたりしているところもあります。

そのため、再稼働している原子炉の数は10基に留まっています。
また、原子力規制委員会によって許可を得ると共に、地元の賛同を得て再稼働に向けて進んでいる原子炉は4基ほど存在しまます。
それでもまだまだ過去の稼働状況には追いつかず、電力逼迫の一つの原因となっています。

第6次エネルギー基本計画によると、全体のうち原子力発電が占める割合は20から22パーセント程度にしたいという目標がありますが、それには達していない状況です。
しかも将来的に廃炉になることが決まっている原子力発電所もありますので、長期的に運用していくという点では、改修や新規建造などの案も含めて考える必要が出ています。
昨今のエネルギー価格高騰に伴う電気料金アップを踏まえて、電源構成をできるだけ分散させる、外部の資源に頼らなくても自前で発電できるようにするということを考えて、原子力発電所の再稼働を求める声が出ているのです。

原子力発電所の安全対策について

このように、電力の安定供給や電気料金の引き下げという面からは、原子力発電の割合を高めることが求められています。
しかし、やはり原子力発電のリスクというものも真剣に考える必要があります。
そのため、再稼働するのであれば確実な安全対策を講じていることが最低条件となります。

安全を守るために原子力規制委員会というものがあり、さまざまな規制をすることで安全を確保する取り組みがなされています。
東日本大震災の教訓を生かして新しい基準を設けていて、その基準に沿っているかどうかを審査する制度が作られています。
多くの場合、新基準に適合させるためには発電所内の施設設備の変更や追加が必要となります。
その工事が終了して、基準に沿った形で施設が運営できるかを委員会が審査してから再稼働が許可されることになります。

また、それぞれの原子力発電所でも緊急安全対策や、アクシデントが生じた場合の対策などをさらに厳しいものとしています。
地元との連携も重視されていて、万が一の場合の避難ルートや医療ケアなどの計画を立てて、地元自治体と住民に周知する取り組みもなされています。